デフリンピックが100年に一度の面白さ!

デフリンピックが100年に一度の面白さ!
草冠結太 2025.11.20
誰でも

いま日本で初めて、デフリンピックが開催されているんですが、これがおもしろい。

デフ+オリンピック。つまり、きこえない・きこえにくい人のためのオリンピックです。四年に一度の開催で、今回は第25回目。節目ですね。正式名称は、夏季デフリンピック競技大会 東京2025。今回は81の国と地域から、3,000人以上の選手が参加します。私はデフリンピックのDIY精神が好きでして。全日本ろうあ連盟、東京都、東京都スポーツ文化事業団などの実行チームが、スポンサー集めから大会運営まで、すべて自分たちとボランティアでやってる。オリパラのように広告代理店や業者に丸投げしてない。お祭りって自分たちでやるから楽しいし、仲間が増えるんじゃないでしょうか。

さらに、今あるものをフル活用している。巨額の税金や協賛費を投下して新しい施設を建設する、といったこともしていません。なんだか健全。

それもそのはず。なんせ始まりは1924年。つまり今回で100周年。年季や場数が違います。ちなみにサッカーW杯が1930年スタート、パラリンピックは1948年スタートですから、歴史の長さが伺えます。DIY精神や、あるものを活用する知恵に加えて、大会哲学として相互理解や平和、連帯があり、祭典としての賑やかさもある。私はどうしてもそこにヒップホップ的なものを感じてしまうのです。好き。しかも全試合チケット無料、予約不要。さらに好き。

試合中、選手が踊ってる。バレーボールを観戦

会場のひとつ駒沢公園。青空の下、白い屋根の競技場を背景に、デフリンピックの桜柄の巨大バナーが展示されている。

会場のひとつ駒沢公園。青空の下、白い屋根の競技場を背景に、デフリンピックの桜柄の巨大バナーが展示されている。

とは言っても、私が生観戦したのはまだバレーボールだけ。大会3日目の11/16(日)、東京の駒沢公園に行ってきました。

まず観客の多さに驚き。

会場内。施設のエントランスから観客席まで人でいっぱい。区民体育館のような施設に満場の人だかり。

会場内。施設のエントランスから観客席まで人でいっぱい。区民体育館のような施設に満場の人だかり。

物販コーナーにも長蛇の列。繁盛していました。

物販コーナー。老若男女で長蛇の列ができている。

物販コーナー。老若男女で長蛇の列ができている。

スゴい客入りですね、とボランティアの人に話しかけたら「これでも空いているほうなんです。午前中には日本戦があったんですけど、満員以上になってしまって。入場を制限させていただきました。まだ予選だったんですけどね」とのこと。私は俄然テンションが上がりました。

そしていざ観客席へ。

試合中のコート。直線的なデザインの未来感のある照明の下、女子選手たちがプレーしている。ブルーのフロアにオレンジのコート

試合中のコート。直線的なデザインの未来感のある照明の下、女子選手たちがプレーしている。ブルーのフロアにオレンジのコート

繰り広げられていたのは、トルコvsウクライナ戦(男子)と、トルコvsカナダ戦(女子)。バレーボールにうとい私が「強豪同士の注目カードなのか?」と驚いてしまうほど観客でいっぱいでした。実際、試合は面白かった。迫力のあるプレーもさることながら、初めて知ったこと、発見がたくさんありました。

一番印象的だったのは、交代を待つ選手たちの様子。女子チーム。

コートの傍ら、ブルーの衝立で仕切られた待機エリアでチームメイトを盛り上げる、赤いユニフォームの選手たち。両手を上下にバタバタ振っている。もはやダンス

コートの傍ら、ブルーの衝立で仕切られた待機エリアでチームメイトを盛り上げる、赤いユニフォームの選手たち。両手を上下にバタバタ振っている。もはやダンス

え?踊ってる?

コートの傍らに設けられていた、交代を待つ選手たちの待機エリア。試合を優勢に進めていた赤いユニフォームのチームは、腕を上げ下げしています。似ている動きとしては、モンキーダンス(って知ってます?)。まるで踊っているようです。シャッターチャンスは逃したのですが、肩を組んで足を上げ、ラインダンスをする局面もありました。

一方、劣勢続きだった黒いユニフォームの選手たちがこちら。

黒いユニフォームの選手たち。交代待機エリアで、みんな棒立ち。

黒いユニフォームの選手たち。交代待機エリアで、みんな棒立ち。

しょぼん。

これ、なんなんだろうと。ベンチで踊る競技なんてきいたことない。ここからは私の予想ですが。団体競技では、士気を高めたり互いを鼓舞するために、声を出します。でも聞こえない・聞こえづらいデフリンピックではそうはいかない。じゃ、どうすんの?ジェスチャーです。ボディランゲージです。ただ選手も人間。勝ってればジェスチャーも大きくなりますし、負けてれば小さくなるでしょう。この選手たちのダンスは、そんなところなのではないかと。まぁお国柄やチームの個性、選手の性格もあるでしょうが。

ちなみに。「ベンチが賑やかだなー楽しそうだなー。赤はカナダだな。あれは欧米のノリだ」と思ってたら、トルコでした。イスラム圏の人もあんなにノリいいの?ごめんなさい。誤解してました。口語がなければ、国さえ見分けられない。ふだん自分がいかに偏見や先入観で生きているか。あからさまになった瞬間でした。

一方で。意外だったのは、デフ選手たちも手を叩いたり声を出したりしていた、ということでした。かなりヤカマシイ、もといアグレッシブ。正直、シーンと静まり返った場内で、ボールを叩くバンバン音とシューズの擦れるキュキュ音が響き渡る、みたいな状況を想像していたのですが、大間違い。ガンガン叫ぶ。怒鳴る、雄叫びを上げる、歓声を上げる。観客にもその熱が伝わってくる。

よく考えたら、当たり前です。あれだけ白熱した勝負で、だんまり決め込むわけがない。ここでもやはり、自分の幼稚なイメージや思い込みを恥ずかしく思ったのでした。無知すぎる。

てのひらをひらひらさせて選手に拍手をおくる観客たち。観客席でみな両手をあげている

てのひらをひらひらさせて選手に拍手をおくる観客たち。観客席でみな両手をあげている

試合が終われば、観客は選手に惜しみない拍手を送ります。たとえそれが敵チームであっても。カナダチームのサポーターも、勝利したトルコ選手に盛大な拍手を送っていました。ちなみに、手のひらを立ててひらひらさせると、手話の拍手になります。どうやらこれは万国共通っぽい。さらにちなみに。赤ユニフォームがトルコの選手、赤い服を着た観客はカナダサポーター。ややこし。

人と技術の交流の場、デフリンピックスクエア

入口付近に設えられたデフリンピックのバナー。白地にピンクの文字でデフリンピックスクエアと書かれている

入口付近に設えられたデフリンピックのバナー。白地にピンクの文字でデフリンピックスクエアと書かれている

なぜ私がバレーボールしか見れていなかったか。それはここに行っていたからです。デフリンピックスクエア。運営本部、輸送のハブ拠点、メディアセンター、練習会場などがあり、デフスポーツやろう者の文化への理解を深める展示、ユニバーサルコミュニケーション(UC)技術の体験企画などもあります。

白い屋根のブースが立ち並び、来場者が訪れている。雲一つない真っ青な秋空のした、色づいた木々も美しい。のどかな雰囲気が心地よい

白い屋根のブースが立ち並び、来場者が訪れている。雲一つない真っ青な秋空のした、色づいた木々も美しい。のどかな雰囲気が心地よい

東京は新宿のほど近く。参宮橋にある国立オリンピック青少年センターに設置されていました。最寄りの駅からすでに手話を使う人がたくさん。施設中央の広場にはいろいろな企業・団体ブースが出ており、グッズ販売、キッチンカーなども並んでいました。

グッズ販売ブース。たくさんの人が列を作っている。店先にはシャツなどの見本がラックにかかっている

グッズ販売ブース。たくさんの人が列を作っている。店先にはシャツなどの見本がラックにかかっている

ここでもやはりグッズは大人気。飛ぶように売れていく。たぶん、みなさんそれだけ会場に通うつもりなのでしょう。ヘビーリピーター。

海外からと思しきお客さんたちもたくさん。もうろうの方もチラホラ。「ダメだ!日本手話とおたくの国の手話、ぜんぜん通じない!わははは!」なんて会話も聞こえてきました。

来場者同士の交流もあちこちで。手話でさかんにおしゃべりしている。海外からと思われる人たちも

来場者同士の交流もあちこちで。手話でさかんにおしゃべりしている。海外からと思われる人たちも

日本手話、国際手話、日本語。多文化が入り乱れた空間。声は少ないのに、静かじゃない。とても不思議。賑やかで、とても居心地がいい。とはいえ基本的には手話が共通言語なので、私もボランティアスタッフさんに手話で話しかけられたりしました。そうか。ここでは私はマイノリティなのか。とても新鮮な体験で、手話は暦とした言語文化なのだと実感しました。

こちらは文化・技術発信エリア。通称カルチャー棟。

施設内の屋内技術展示エリア。企業や役所のような白い天井と廊下に、いろいろな企業・団体が出展している。見学者でにぎわっており熱心に見ている

施設内の屋内技術展示エリア。企業や役所のような白い天井と廊下に、いろいろな企業・団体が出展している。見学者でにぎわっており熱心に見ている

役所とか大学とかに似た施設の中に、ここでも企業や団体の出展がびっしり。廊下の両側を埋めているのですが、そこをたくさんの人が見学して回ります。はい。シンプル。お金もできるだけかけないようにしていることがわかります。オリンピックやパラリンピックのようなスケールも派手さもない。でも、そこがいいんじゃない!ちょっと豪華な大人の文化祭。そんな雰囲気でした。

富士通が開発した「エキマトペ」。角の丸いテレビのようなモニターに、手話と文字が表情されている。電車の到着や通過を文字で知らせる

富士通が開発した「エキマトペ」。角の丸いテレビのようなモニターに、手話と文字が表情されている。電車の到着や通過を文字で知らせる

大手企業の最新テクノロジーが展示されていたり。

カフェエリアもあって、交流の場になっていました。来場者だけでなく競技関係者やスタッフの方の姿もたくさん。これだけの人なのに、やはり手話が共通言語なので独特の空気感。賑やかなのに落ち着きを感じる、私には不思議な空間でした。

カフェスペースの様子。社食や学食のような、白い空間に木目調のテーブルが並んでいる。どれも満席。一般客だけでなくスタッフゼッケンを着けた人や海外選手と思われる人たちも交流していた

カフェスペースの様子。社食や学食のような、白い空間に木目調のテーブルが並んでいる。どれも満席。一般客だけでなくスタッフゼッケンを着けた人や海外選手と思われる人たちも交流していた

タブレットに打ち込んだ文字が表示される透明ディスプレイ。タブレットからコードで接続されており、アクリルのような透明な板に文字が表示されている

タブレットに打ち込んだ文字が表示される透明ディスプレイ。タブレットからコードで接続されており、アクリルのような透明な板に文字が表示されている

テーブルにはベンチャーの新製品もおかれて、試用できたりします。

カフェスペースの壁。紙コップ型のメッセージカードに、選手たちへの応援メッセージが書かれており壁一杯に張られている。数え切れないほどの数

カフェスペースの壁。紙コップ型のメッセージカードに、選手たちへの応援メッセージが書かれており壁一杯に張られている。数え切れないほどの数

カフェスペースの隣の壁面には、選手たちへのメッセージカードがびっしり。コーヒーの紙コップ型のカードに、思い思いの声援がしたためられていました。フォトスポットとして記念撮影する人もいました。

配信も一見の価値あり。デフリンピックならではの競技も

今回のデフリンピックは、東京、静岡、福島が試合会場になっています。日本全国だれもが現場に行けるわけじゃない。だからもちろん配信やアーカイブもあるのですが、それもまた面白いのです。

こちらは開会式の様子。パフォーマンスは、日本で手話が禁止されていた昔から始まり、やがてつながり合う未来への物語になっています。私はチケットが外れて家で視聴。無念。これも生で観たかったなぁ。

ちなみに私が11/15(土)にリアルタイムで観ていたときは、同時視聴者数が5,600人。なんだかなーとちょっと寂しくなっていたのですが、これを書いてる今、公開日数4日間にして視聴数110,000回。やっぱり見られているんだな、と。

そしてこちらが陸上競技決勝。

なにが面白いって、実況と解説が面白い。音声と同時に字幕化され、手話通訳者による日本手話も映されます。国際手話と英語字幕のバージョンもあり。

でも。字幕があれば手話通訳いらないのでは?自分なりにちょっと調べてみました。まず、ろう者にとって手話は第一言語であることも多い。字幕が読みづらかったり、追いつけなかったりすることがある。字幕は同時変換だと誤字もあります。さらに手話は顔の表情なども情報になります。日本手話ではなく、日本語対応手話や口話を使う人、補聴器などを利用して音声情報を補う人などもいます。だから、情報保障としてアクセシビリティは、複数の手段を用いるのが基本にして必須。らしいです。私調べなので本当か?という部分もあるのですが、現状ではそんなところでした。これが正しい理解なのか。いつか現場の人にきいてみたいと思っています。

たしかにチャネルや選択肢は多い方がいいし、そうあってほしいものです。これって、他の社会問題にも共通すること。選択肢の多さが、他の誰かを阻害・妨害するはないはずです。それを実感や経験としてもっていることは、これからの社会制度を考える・決める上でとても重要ですし、こういったイベントの役割は大きいのではないでしょうか。

こちらはバスケットボール。

リアルタイム字幕や手話通訳はついていません。全試合に付けるほどリソースがないのかもしれない。今後の課題ですね。ちなみに日本の男子チームが81―79でアルゼンチンに競り勝ち、今大会初勝利。2点差!1ゴール差!世界ランキング19位の日本が5位のアルゼンチンを破る大番狂せを演じました。デフアスリートは審判の笛やブザーの音がきこえない・きこえにくいため、試合ではゴールの支柱やテーブルオフィシャル席の前面にLEDランプを設置し、 音に合わせて点灯させることで、視覚的に知らせる情報保障を行っています。

あと、こちらも注目。オリンピックやパラリンピックになくて、デフリンピックにだけある競技というものがあります。「ボウリング」と「オリエンテーリング」です。

屋内競技と屋外競技。設備スポーツとネイチャースポーツ。数歩だけ歩く、走りまくる。真逆の個性なのに、どちらもデフリンピックならではというのが興味深いです。とくにオリエンテーリングの配信は、工夫が凝らされていて興味深いです。会場は東京の日比谷公園なのですが、そこを選手が走り回るわけです。カメラが追走するわけにもいかない。どうやって中継するの?と。オリもパラも敬遠しそうな配信のハードルをどうやってクリアしているか、ぜひ見てみてください。デフリンピック、根性入ってます。私はオリエンテーリングという競技を初めて見ました。というか、競技だったんだ、と初めて知りました。どういう運命を辿ったら、オリエンテーリングという競技に出会うことになるのか・・・。世界は広いです。

11月26日の閉会式(こっちもチケットはずれた!)まで試合は続きます。私もできるだけ観戦したいと思ってます。きっと新しい文化や驚き、そして感動に出会えると思います。ご興味のある方は、ない方も、ぜひ!今度いつ日本で観られるか・・・100年後かもよ!

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