12/14から映画「Mothers(音声ガイド付き)」上映開始!ぜひご覧ください!

12/14から映画「Mothers(音声ガイド付き)」上映開始!ぜひご覧ください!
草冠結太 2025.12.11
誰でも

映画って、見える人だけのものじゃないんだ。今年あらためて、身をもって学んだことでした。

いわずもがな、視覚に障害のある方の中にも、映画ファンはたくさんいます。そして耳で鑑賞する方々は、「音声ガイド」を利用することが多い。登場人物の表情や動き、風景、場面転換など、視覚的な情報を補うナレーションのことです。

この音声ガイド。実は見える人が聞いても、鑑賞体験がグッと深まります。見えていなかった重要なディテールや、監督の思わぬ狙いなどに気づくきっかけになるからです。近年では単館からシネコンまで、ガイドに対応した作品が続々と増えています。

とか分かったふうで書いてますが、そんなアレコレも音声ガイドの台本制作講座で初めて知ったこと。今年の夏から半年ほど通い、課題として「Mothers」という映画のガイドづくりに携わらせていただきました。そうは言っても、私の他にも20〜30人の受講生がいるので、貢献度はエキストラ程度なのですが。

で。その音声ガイド付き「Mothers」が、きたる12月14日から25日まで、東京・田端にある映画館「シネマ・チュプキ・タバタ」で上映されるのです。ちなみに、ろうの方も楽しめるよう日本語字幕もつきます。

本作は母をテーマにした、全5話のオムニバス作品。脚本家5人が各作品のプロデューサーも務め、すべて自腹で製作しました。

無差別傷害事件を起こした息子を抱えた母の葛藤を描く『BUG』。子育て幽霊の怪談をモチーフにした『夜想』。母にコントロールされ続けた娘の悲哀を描いたサスペンス『いつか、母を捨てる』。クリスマスに巻き起こる子育て反省コメディ『だめだし』。一見なんの変哲もない暮らしを送る母娘と元夫。母の喪失と再生を描いた『ルカノパンタシア』。

笑いあり、涙あり、ゾっとするものあり。私が参加したのは5本目の『ルカノパンタシア』ですが、どれも見応えがあり、製作の経緯もふくめて丸ごと面白いことは間違いありません。

上映館である「シネマ・チュプキ・タバタ」は、知る人ぞ知る日本初のユニバーサルシアター。視覚情報にアクセスしづらい人と一緒に映画を楽しむために、言葉による解説をいち早く手がけてきた、音声ガイドの先駆者です。開館以来、上映に際してガイドを作らなかった映画は一つもないのだとか。2023年に上映されたバリアフリー対応の洋画8本のうち、実に7本の音声ガイドを、この映画館が作っています。大手の映画会社さんもがんばってよ。

私が通った台本制作講座の主催も、このシネマ・チュプキ・タバタでした。そこで学んだことが、とにかく楽しくて、奥深くて。

「今まで私は映画の何を観ていたんだ」

と目が覚めるような思いでした。それもそのはず。かなりの人気講座で、受講申込は定員オーバー。席数を増やしてもまだ足りず、抽選になってしまったとか。私は今年の運をすべてこれで使いきりました。

講座では映像を見つつ、脚本などの資料も参考にしながら、まずはテキストで場面を描写します。たとえば

「スクルージが目をあげる 三人の精霊が現れる」(クリスマス・キャロル)

「ケビンの背後 窓から泥棒が覗いている(ホーム・アローン)」

みたいに。シーンごとの演出意図を読み取り、映像に含まれる膨大な情報から本質だけを抽出。1音単位で短く言語化し、セリフや効果音、BGMの間隙にすかさず挿し込む。ミリ秒の攻防です。他にもテクニックがたくさん。まさに職人技でした。

テキストができたら、次は映像に合わせたナレーション入れ。速さやテンションも含めて、クオリティチェッカーさんの意見や助言をもらいます。クオリティチェッカーさんは視覚障害者ですが、非常な映画ファン。指摘がすべからく的確で鋭い。私の知らない世界の捉え方を教えてもらった感動がありました。

その過程で、当然ですが、見えない程度・見える程度は人によって違うことを再認識することになります。生まれつき見えない方。途中で失明された方。少し見える方。一部だけ見える方。光だけ感じる方。ほんとうに人それぞれ。

でもこれ、見えているはずの私たちだって同じこと。音声ガイドの作り手によって、描写するものがかなり異なったりするのです。そんなシーンあったっけ。そんなもの映ってたっけ。自分が見えてなかったものが、あの人には見えていた。逆も然り。

「あれ?俺たち同じ映画見てた?」

そう驚いたことは、一度や二度ではありません。「見えない」を知ることは、「見える」を知ること。私たちが共有していると思い込んでいるものは、実はあやふやなのかもしれない。どこか心細くなり、それがスリリングでもありました。

だからこそ、音声ガイドが通じた時は感動というか、ある種の快感があります。聞いてくれた人と繋がった。映画の魅力に一緒にタッチできたという共鳴です。砂場に作った砂の山。あっちとこっちからトンネルを掘って、伸ばした指先同士が触れ合った瞬間の「!」。あれに似ているかもしれません。

そうそう。音声ガイドづくりは、チームプレーでもありました。クオリティチェッカー、監督、ナレーター、そして自分。それぞれの解釈があり、ボキャブラリーレベルがあり、狙いや好みがあり、声質や喋りクセがあり、何より強い思い入れがある。互いの違いを楽しみながら、そこにいるメンバーだからこそ作れるガイドを目指していく。出会いをクリエイティビティに昇華させていく作業です。

そんなコミュニケーションが、私はとても楽しかった。きっと他の受講生も、刺激的な体験を楽しんだはずです。しかも。だいの大人20人〜30人が寄ってたかって知恵とセンスを絞り出した音声ガイドです。それが面白くないわけがない!「Mothers」を音声ガイドと一緒に楽しんでみてください。この作品が、いかに精緻な計算のうえに作り込まれているか。繊細な演技で成り立っているか。きっとお分かりいただけると思います。

ということで最後にもう一度、告知させてください。今月12月14日から25日まで、東京・田端にある「シネマ・チュプキ・タバタ」で、映画「Mothers」の音声ガイド・日本語字幕付きバージョンが上映開始。水曜日は定休日なのでご注意を。お近くにお立ち寄りの際は、ぜひ!面白いよ!

追伸。この音声ガイド。映画館で利用するには、スマホのアプリを立ち上げる必要があります。もしも、暗闇でスマホをいじっている人がいたら。すぐにめくじらを立てず、少しの間だけ様子を見ていただくなど、ご理解いただけると嬉しいです。その人はスマホを使って、耳で観る方かもしれません。

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