美味いビールを買いに終着駅まで

美味いビールを買いに終着駅まで
草冠結太 2026.03.10
誰でも

ビールは別腹。
とか言ってたら、ビール腹になってしまった。

去年に体調を崩してから、めっきりお酒が飲めなくなった。体質が変わったのか、一生分飲んでしまったのか。たぶんその両方なのだけれど、飲みたいとも思わなくなった。
ただし、ビールをのぞいて。

ビールだけは、飲みたい夜がある。ときおり、無性に、どうしても。たとえ腹囲が100cmを超えようとも。46歳にもなってお客さんから怒られたりした日はとくに。
一説によれば、ビールは紀元前8000〜4000年からあるらしい。一万年の誘惑に勝てるわけがない。

とはいえ、かつてのようにプシュッと開けてグィっとやってプハーッという具合いはいかない。1缶もしくは1本の少し良いビールを、ゆっくり味わう。料理と一緒に楽しめれば、それで十分ありがたい。

そんな私にうってつけのビールがあった。

「方南ローカルグッドブリュワーズ」。
エシカルメディアrootusさんのイベント「rootus night」で飲んで、これが美味しかった。一口つけて「これはイケる」と思った。
会場にいらした作り手の方にお話を伺うと、障害のある醸造士さんたちが醸しているとのこと。そのお話で味わいがいっそう深まった、というのもある。エピソードも含めて、とても後を引くビール。

翌週さっそく私は、東京・杉並区にある方南町に買いに行ってしまった。東京メトロ・丸の内線の終着駅。
店頭にあったのは、全部で4種類。私はそのうち3種類を選んだ。

左から、ローカルグッドエール、方南I.P.A、方南レッドエール

左から、ローカルグッドエール、方南I.P.A、方南レッドエール

私のお気に入りは「ローカルグッドエール」。
香りがとても華やいでいて、口当たりも軽やか。しかし決して水っぽいわけではなく、麦の味わいは強く感じる。ビールらしいうまみが舌から喉へ流れていったかと思えば、あと味はクリア。香りだけ残して、スッとひいていく。私はニンニクを効かせた鶏唐揚げと一緒にいただいたのだけれど、あやうく無限ループにハマるところだった。

ちなみに。人間ドックの前日以外一年364日飲む妻は「方南I.P.A」がお気に召したご様子。
「苦味がクラフトビール離れしてんねん。あと匂いもオシャレやわ。大人のビールって感じする。なんぼでもいけるわ。ビールつまみにビール飲むならコレやな。それか刺身」
遠回しに、肴は旬菜ではない、とダメ出しされた。酒飲みは、甘みと苦みにうるさい。

肴は菜の花、こごみ、たらの芽

肴は菜の花、こごみ、たらの芽

正直、私たちはクラフトビール特有の個性的な味や強すぎる余韻が苦手で、飲んでいて飽きるというか、億劫になってしまう。そこだけは気が合う。
だからいつもは大手メーカーの缶ビールなのだけれど、そんな二人でも方南ローカルグッドブリュワーズは楽しめた。

このビールは、方南町の就労継続支援B型で醸造されている。つまり、醸造士さんたちは障害のある方々。

お店の様子。センスと親しみやすさがまざった感じ

お店の様子。センスと親しみやすさがまざった感じ

レジカウンターの背中には、醸造しているビールタンク

レジカウンターの背中には、醸造しているビールタンク

といっても、たんなる自立・就業支援ではなく、地元を代表する名物をつくることも大きな目的になっている。
だから商店街やNPO法人そして一般社団法人ビーンズによって、地元密着で運営されている。
売り上げは障害者就労や子ども支援に使われるのだとか。

方南町の商店街

方南町の商店街

この方南ローカルグッドブリュワーズが、ビーンズによって運営されていると知って、それでか!と納得してしまった。
というのも。ところ変わって東京・神保町のほど近くに、「ソーシャルグッドロースターズ」というカフェがありまして。そこにも障害のある焙煎士さんたちがおり、とても芳しいコーヒーを淹れてくれるのだけれど、その運営がビーンズなのだ。説明が長くなりました。

神保町の技術や運営ノウハウが、今度は方南町のビールに応用されている。なるほどね。そりゃ美味いはずだわ。
「FRUITS ZIPPER」と「CANDY TUNE」が同じ事務所で納得、みたいな感じ。はい。例えてもっと分からなくなるやつ。

最近、ユニークな就業・自立支援を目にすることが増えた気がする。
たとえば、大阪の「バーガーキング イオンモールりんくう泉南店」。ここはバーガーキングにして就労継続支援A型事業所。
北海道から四国まで多くの事業所がある「にじげん」は、クリエイターとしてスキル取得しながら働ける就労継続支援B型事業所。
東京・日本橋にある「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」にいたっては、その名の通りロボットがいる。障害などの理由で外出困難な方々が人型ロボを遠隔操作して、料理を運んでくれたり、おしゃべり相手になってくれたり、一緒に街に出て観光案内してくれたり。娘も大興奮だった。

去年の秋。ロボを肩に載せて日本橋を散策する娘。さまざまな事情から家を出られないパイロットさんがロボを遠隔操作し、観光案内してくれる。

去年の秋。ロボを肩に載せて日本橋を散策する娘。さまざまな事情から家を出られないパイロットさんがロボを遠隔操作し、観光案内してくれる。

そんな大きくて明るい流れを、方南ローカルグッドブリュワーズは先駆けているのかもしれない。
仕事を地域を巻き込む接着剤として機能させること。同じ「近所で働く人」として天気や季節を共有して、共通言語をもてること。それは助ける/助けられるの直線関係から離れて、街の住みやすさを底上げしているような気がした。

老後のライフスタイルとしても、こういう街っていいなぁ。人間だれしも自立して生きていける期間なんて、本当はそれほど長くない。そのわりには頼ることを学ばないまま大人になり、年をとってしまう。
私は、いろんな年代の人の声が聞こえてくるこの街の取り組みに、憧れを覚えた。

地元のお祭りのポスター。プロレスに理解がある街は100%いい街。西口プロレスの選手も

地元のお祭りのポスター。プロレスに理解がある街は100%いい街。西口プロレスの選手も

しかもビール。地元がビールの名産地だなんて、さらに憧れる。
規制緩和で、住宅地や団地の中にも醸造所が増えていたりするけれど、この取り組みは先進的なモデルケースなんじゃなかろうか。
お店の店員さんいわく
「ありがたいことに評判をいただいていて、ビール好きな人ほど唸りますね。飲みやすい味にしたんですが、玄人ウケするんです。作ってる障害のあるみんなも張り合いになってますし、実際、売れてます」
とのこと。
正直、私は1本750円の値札に怯んだのだが、なんか夢のある話だなと思い直した。

とはいえ。飲んでしまえば小難しいコトなんてどうでもよくなる。そのくらいバッチリ仕上がっている。もし飲み過ぎてしまっても、飲み代が誰かの応援になるのであれば、罪悪感も薄れるってものだ。ビールって偉大。

美味しそうに撮るのって難しいですね

美味しそうに撮るのって難しいですね

方南ローカルグッドブリュワーズは、基本的にどこにも卸してないらしい。なんせローカルグッドだから。レペゼン方南町。買うならお店に行くか、オンラインで。お店は火と日がお休みだってさ。
会社と家のシャトル往復で毎日を繰り返している私にとって、全く知らない街を汗をかきかき訪れるのも、これまた冷えたビールへの助走だったりした。

春が本番をむかえたら、また買いに行こうと思っている。
桜の下で飲んだら、さぞ美味いだろうな。

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