Tokyo Prideで娘と恋の話でも

Tokyo Prideで娘と恋の話でも
草冠結太 2026.06.10
誰でも

「ママは何人と付き合ったことがあるの?」
娘が妻に聞いていた。
あの、パパがいるとこで聞かないで。

小四になる娘が、恋愛に興味を持ちはじめた。
彼女にはすでにカレシがいるし、クラスのお友だちにも交際歴7年のカップルがいる。もう一度言います。小四です。

そして娘の学校では、そろそろ性教育の授業が始まる。
うちの自治体では「包括的な性教育の推進」を掲げているし、セクシュアル・マイノリティについての理解を助けるリーフレットも公開されている。
でも、これは人権の話。学校だけで教わるものでもないだろう。

そこで私は娘を連れて「Tokyo Pride 2026」に行った。
6月7日の日曜日。東京・渋谷は小雨の上がった曇り空で、暑すぎず寒すぎず。子ども連れにはちょうどいい、絶好のお出かけ日和だった。

NISSANのパレード

NISSANのパレード

「Tokyo Pride 2026」とは、LGBTQ+コミュニティの権利を守り社会的な認知を拡げるためのイベント。人権への理解を深め、偏見や差別をなくすことを目指しているから、障害のある人だったり、外国の人だったり、いろんな人が参加している。セクシュアル・マイノリティの人もいるし、そうじゃない人もいる。

渋谷駅から、NHKの本局がある代々木公園へ向かう道中。さまざまな団体・企業のパレードとすれ違った。私たちのような親子がバナーをもって、パレードの先頭を歩いていたり。
沿道から声援が飛び、参加者は笑顔で手を振りかえす。たぶん一年でもっとも渋谷がハッピーでピースな空気に包まれる日。

フラッグをたくさん立てて歩くグループも

フラッグをたくさん立てて歩くグループも

私たちが歩くすぐ後ろで、大きな声がした。
「I am a gay! He is my husband! Happy Pride!」
振り向くと、若い男性カップル。一人がパレードに叫びかけ、もう一人が隣で「どうも」と笑っている。
その瞬間、人混みの視線が二人に集中し、爆発したような祝福の声が上がった。私も頭の上で拍手を送る。
「なんて言ってるの?」
「私はゲイです。彼は私の夫です。って」
今にも胴上げしそうな盛り上がりを、娘は何度も振り返っていた。

メインゲートの下にはパレードの待機列が長く続いている

メインゲートの下にはパレードの待機列が長く続いている

「Tokyo Pride」には、過去にも娘を連れてきていた。
しかし、いかんせんアジア最大級の祭典。公式によれば30万人くらい訪れるというから、秋田市の総人口が一堂に会するようなもの。
まだカラダの小さかった娘は、場を楽しむ前に疲れてしまっていた。メインゲートをくぐったら、あとは抱っこして歩くというのが毎年の恒例。

でも。彼女も大きくなった。もう抱っこはできないし、させてくれない。そのかわり体力もついた。
今年は二人でフードエリアまで辿り着くことができた。美味しそうなキッチンカーを見つけて、オーダーに並ぶ。

ラムネソーダとレインボードーナを買うのに合計60分待ち

ラムネソーダとレインボードーナを買うのに合計60分待ち

肉を焼く匂い。スパイスの香り。カンパーイ!とか、久しぶりー!の声。派手な衣装の人。ほぼ裸の人。塗りたくってる人。すっぴんの人。ベビーカーも、白杖の人も、いろんな肌の色の人たちも。

道ゆく人を観察しながら、待ち時間で娘とゆっくり話す。
「いろんな人がいるね」
「つーか、いろんな人しかいないっしょ」
「それにしても大盛況だね」
「楽しそうだからいいんじゃない」
前にも来たことあるし、みたいな余裕を見せつけながら、しかし娘の視線はあちこち飛び回っていた。背が伸びて、見える光景が変わってきたのかもしれない。

ユースのブースで歳の近いお姉さんの話をじっときいていた

ユースのブースで歳の近いお姉さんの話をじっときいていた

「クラスで付き合ってる子とか、いるの?」
「いることはいる。女子の方がそういうこと話すね。男子はあんまり」
「きっと、男子を好きになる男子もいるよ。女子も」
「うちのクラスにはゼッタイいない!そういう雰囲気じゃないから」

待ってました、そのパターン。それ、お父さん予習済みです。
「いや、きっといるんだよ。言えないってだけ」
「そうかな」
「君のクラス何人?」
「29人」
「じゃ2、3人はいるはず」
「まぁまぁいるね」
「まぁまぁいるんだよ」
いろいろな調査を総合すると、8〜10%がセクシュアル・マイノリティ。そう説明すると、パーセンテージを習ったばかりの娘は、小さく何度かうなづいていた。

「君も、何かしらの“まぁまぁいる”側の可能性あるからね」
「でも私は大丈夫。殴られる痛みを知ってるから。いつも男子に殴られてるから」
おそらく私が言いそうなことを先回りしてくれたのだろうが、話が思わぬ方向にそれた。聞き捨てならない。
「そうなの?誰に?どこを?どんなふうに?」
「大丈夫。ちゃんと殴り返してるから」
小さな拳を見せてくる。ならいいか。いやよくないけど、今度蹴り方も教えるよ。

ドラァグクイーンの「愛の讃歌」。絶唱。

ドラァグクイーンの「愛の讃歌」。絶唱。

ジュースとドーナツとフライドポテトでお腹が落ち着いたのだろう。そこからポツポツと質問をしてくるようになった。
「女の人も男になれるの?体は?」
「頭に象さんのジョウロ載せてる人いるけど、なんで?」
「あの歌手、男?女?なんであんなに人気なの?」
その一つ一つに、答えたり困ったり一緒に答えを探したりしながら、代々木公園を抜けて原宿駅へ向かった。

歩道橋の階段を上がる。
「疲れた。あたし陽キャ苦手なんだよね。自分が陰キャだから」
「今日だけは陽キャでパリピ、ってた人もいたよ、きっと」
「パパも陰キャだもんね」
遺伝しちゃってごめんね。

階段を上がりきると、そこから会場を一望できた。
今年のTokyo Pride、メイントピックは同性婚なのだと伝える。同性同士の結婚について。そもそも結婚という法律について。できるだけ報道されている事実に基づいて。
娘は、結婚のことなんて考えたこともなかったらしい。そりゃそうだよね。
「そろそろ授業でやるはずだよ」
「あたしも結婚できるのかな」
「多分できるよ。しなくてもいいし」
「私たちしか結婚できない法律とか、コワッ!キモッ!」
弱気で口が悪い。さすが陰キャを自認するだけある。やっぱり、いろんな意味で私の娘だった。

歩道橋のうえから、改めて人の多さに親子で驚く

歩道橋のうえから、改めて人の多さに親子で驚く

「パパって付き合った人はいるの?」
娘が振り返ってきいてくる。おいでなすった。
「お母さん」
「その前は」
「いたよ」
「・・・」
疑うなら聞くなよ。
娘の恋愛尋問を封じるために、売店でアイスを買って地下鉄を目指した。

来年もまた、娘を誘って行こうと思う。
そのときは、同性婚が実現へ進んでいることを祈っている。
ふうふ愛の数が今より増えた未来に、彼女を送り出したい。

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