Tokyo Pride 2025と娘たちのキス

Tokyo Pride 2025と娘たちのキス
草冠結太 2025.06.19
誰でも

今年は娘にフラれた。ピシャリと。

毎年、娘と東京レインボープライドへ行っている。東京レインボープライドとは、渋谷で毎年開催されているイベント。セクシュアルマイノリティについての認識や理解を広め、当事者の権利を訴える祭典なのだけれど、真面目でド派手で、とにかくデカイ。公式によるとアジア最大級らしい。

ジェンダーやセクシュアリティのこと。いろんな人がいる社会のこと。人権のこと。法律のこと。家や学校の外に飛び出て、親子で見たり聞いたりする機会として、草冠家では恒例行事になっている。

Tokyo Prideと名称を変えた今年も一緒に行こうと言っていたのに、当日の朝フラれた。「今日はF美と宿題するから」と。漢字の書き取りと割り算の練習問題を、お友達と片付けてしまうらしい。

「宿題なんかより大事な勉強もあるじゃんよー」などとそそのかし、さらには渋谷や原宿のスイーツで懐柔を試みたもの、娘は気持ちいいくらい冷淡に、ノートやらドリルやらの準備を始めた。

どうやら、一緒に行くと思い込んでいたのは私だけだったようだ。子どもはすぐに大きくなる。親なんかよりも、友達とすごす年頃がやってきたのだ。勉強を理由にすればお父さんは口をつぐむ、というのも、彼女なりの作戦なのだろう。親子の行事が減るたびに、チクリと子どもの成長を感じる。

彼女には恋を知る前にいろいろ分っといてほしいんだけどなぁ、と一人トボトボ向かった渋谷では、パレードがすでに始まっており。見送っても見送っても、行列が途切れることがなかった。それもそのはず。公式発表によると、パレードの参加者は約15,000人。団体にして60団体が渋谷と原宿を練り歩いたという。さすがアジア最大級。

Family Prideという横断幕を持って歩く人々。沿道から手を振ると振りかえしてくれた

Family Prideという横断幕を持って歩く人々。沿道から手を振ると振りかえしてくれた

原宿の歩道橋の上から。このパレードがどこまでも続いた

原宿の歩道橋の上から。このパレードがどこまでも続いた

ようやく到着したメインゲートも、混雑に超をつけてもまだ足りないほどの人だかり。これから出発しようするパレード隊と、それを送り出す人たちと、フェスティバル会場に入ろうとする人々が、立ち往生してとぐろを巻いている状態だった。いかんせん来場者数は会期の二日目間で、過去最多の約273,000人。これは青森市の人口に匹敵する。

人人人でごったがえすメインゲート

人人人でごったがえすメインゲート

普通のお祭りや花火大会などだったら、怒声の一つもあがりそうなものだけれど、会場はいたって平和で、どこを見ても笑顔だらけだった。スピーチが風にのって聞こえてくる。肉を焼く匂いとライムカクテルの香り、そして「Happy Pride!」の声。白状の人、車いすの人、肩に乗ってる子。人混みの中を自転車で通ろうとするおばあさんに、みんなで道を開ける、というひとコマも。モーゼの海割りを思い出した。

そんな光景は、いろんなカップルが、いろんな友達が、いろんな家族が、そのどれでもあったりどれでもなかったりする人たちが、それぞれに「ここに愛がある」と声を上げる、あのイベントならではのものに思えた。

なんてことを土産話にしようと帰宅すると、娘はF美とリビングでゲームをしていた。宿題はとっくに終わったという。

「ねぇねぇ。お父さんさっき東京プライドに行ってきたんだけどさ」

「知ってるー」「知らなーい」

真逆にきこえて同じこと、つまりどちらも「興味ない」。娘もF美も画面に集中し、こちらを見向きもしない。

「学校で好きな子の話とかしないの?」

私は二人とイベントについて話したくて、会話の糸口を強引に探ってみるものの

「バラされたくないからしない」「好きな子いない子もいるし」

とのこと。まったくもってゴモットモ。

そして二人は一瞬のアイコンタクトを交わし、ゲームを止めて、子ども部屋にこもってしまった。ごめんなさい。大人の押し付けでした。二人を邪魔してしまったことを、私は反省した。

それから数時間後。子ども部屋の扉が開いた。

「おじゃましましたー」

F美が玄関に向かい、娘がその後についていく。私は、忘れ物がないか点検しながら、二人を目で追った。

その先で。

F美が娘のほっぺに、唇をあてていた。娘は頬をつきだしながら、静かに目を瞑っていた。互いの柔らかさを確かめ合うようなキスだった。私はそのまま玄関に近づかず、食卓の椅子に腰を下ろした。

彼女たちの「好き」は、私の「お勉強」の先を行っていた。今のその「好き」が、どんな「好き」でも構わない。そのまま。私のようにしたり顔で、押し付けがましくて、邪魔してくるヤツなどすべて振り切って、そのままの「好き」を突っ走ってほしいと思った。とはいえ小3でキスは少しスピード違反ではないでしょうか、という親心はいったん脇に置いておく。

玄関先では

「大好きだよー!」

「私も大好きだよー」 

「ワタシは日本でいちばん!」

「私は世界でいちばん!」

と、愛別のインフレが起きていた。徒歩30秒の近所に住んでるのに。

来年こそ娘と、できればF美も誘って、パレードに出かけよう。世界はいろんなキスで溢れている。最初に知ってほしいのは、そんなこと。

F美の見送りから戻ってきた娘は

「さっき見てたでしょ」

と怒っていたけれど。

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