親子の車いすラグビー観戦記〜楽しかった!プレー体験も衝撃的〜

親子の車いすラグビー観戦記〜楽しかった!プレー体験も衝撃的〜
草冠結太 2025.04.23
誰でも

「車いすでラグビーなんてできるの?」

ひょんなことから、娘が素朴な疑問を口にした。

なんてとはなんだ、なんてとは。できるかどうか、一緒に確かめようじゃないか。ということで、私たち親子は車いすラグビーの観戦に行くことにした。

車いすラグビーとは、その名の通り車いすに乗ってプレーするラグビーのこと。あっちのラグビーの違うのは「1チーム4名」「ボールは前に投げていい」「シンプルな1トライ1点制」といったところか。他にもイロイロあるけれど、とりあえずこの3つを知っておけば、あとはノリでOK。なにせタックルもチェイスもある、車いすvs車いすのド突き合い、激突ショーなのだから。

そんなことをおさらいしながら親子で向かったのは、東京・渋谷で開催された「三井不動産 車いすラグビー SHIBUYA CUP 2025」。会場は東京2020パラリンピックと同じ代々木第一体育館、最大収容約13,000人の大舞台。しかも入場無料、途中退場も再入場も自由。小3のパラスポーツ生観戦デビューにはもってこいだった。

いざ会場入り。ここは親子レジャーの穴場

メインエントランス。トラスを組んだゲートが立派

メインエントランス。トラスを組んだゲートが立派

メインエントランスにはトラスが組まれ、立派な門構え。嫌が応にもテンションが上がる。とはいえ、人影はまばらだった。記念写真を撮っている人がチラホラ、といった程度。

これがいい、これがいいの。何せこちらは、小三の子連れなのだ。いきなり満場の大イベントでは敷居が高い。しかも代々木第一体育館を独り占めするような贅沢感もある。ここは間違いなく、親子レジャーの穴場だ。「きれいなところだね」と娘がいった。代々木第一体育館の建築美なんて、父ちゃん気づかなかったよ。

会場に向かう我が娘。足取りがややオラつき気味

会場に向かう我が娘。足取りがややオラつき気味

ちなみに、車いすラグビーは別名マーダーボール(殺人闘球)とも呼ばれる。なんて話を娘にしたところ、やおら戦闘態勢に入ったもよう。自らが戦いに赴く、オラついた足取りで会場入りしていた。ラグビーは紳士のスポーツでもある、と補足説明しておいた。

ここは建設現場か?場内に車いすの衝突音が響き渡る

車いす同士が衝突する金属音が、広い会場に響き渡る

車いす同士が衝突する金属音が、広い会場に響き渡る

会場に入るなり、娘は女性選手が活躍しているところを目撃。

「女の人がいるじゃん!」

と驚いていた。ごめん。ラグビーは紳士だけじゃなく、淑女のスポーツでもありました。とくに車いすラグビーは男女混合。車いすでラグビー、というだけじゃない。男女が共に戦うところにも、娘は常識が揺さぶられていた様子。

私は私で驚いたことがあった。豪州チームに、手先のない選手がいたのだ。

「すげーな・・・」

足は動かない。手先もない。それでもなお、マーダーボールのコートで戦いに身を投じる。すごいを通り越して、もはやPUNKだった。

ボールを奪取してゴールを目指す日本チーム。それを追う豪州チーム

ボールを奪取してゴールを目指す日本チーム。それを追う豪州チーム

それにしても車いす、通称「ラグ車」同士がクラッシュする衝突音がものすごい。代々木第一体育館にこれほどの金属音が響き渡るのって、建設時以来なんじゃなかろうか。

「あれ、1台で150万とか200万とかするらしいよ」

と娘に伝えると、

「え!うまい棒10万本買えるじゃん!」

という、小三らしいのからしくないのかわからない感想が返ってきた。うまい棒って、いま15円なのか。父ちゃんの時代は10円だったよ。

そして、さすがの150万。ちょっとやそっとじゃ壊れない、倒れない、そんで速い。強靭性と速度の二律背反を高次元で両立させた者同士の潰し合いは、どこか一流プロレスラーの試合に通じるものがあった。

豪州選手のデカさと速さは桁違い

豪州選手のデカさと速さは桁違い

我々が観戦したのは、日程第二日目の日本vs豪州の試合だった。豪州といえば、言わずと知れたラグビー最強国の一つ。それは車いすラグビーでも変わらない。デカい、速い、上手いの三拍子が揃っていた。

しかし、そこはパリ・パラリンピックで金メダルを獲得した日本。魅せる試合をやってのけた。豪州に1点ビハインドで迎えた、ノーサイド10秒前。日本は一瞬の隙をついて同点に追いつくと、その勢いに乗って残り2秒で逆転。ゴール間際のデスゲームを制して、見事勝利した。

盛り上がる観客席。娘の愛国心に火がついた

盛り上がる観客席。娘の愛国心に火がついた

楽勝よりも辛勝のほうが、面白いに決まってる。ドラマチックこの上ない展開に、娘も大興奮。

「日本が勝った!日本最高!」

と、いきなり愛国的な歓声をあげていた。ここでは声量が礼儀。私も、あんなに大声を張り上げたのは何年振りだろう。

ちなみに売店では飲食物も売っていたと記憶している。メニューにはビールもあったのも見逃していない。あんなに熱い試合になるんだったら、ビール買っておけばよかった。

親子で興奮。タックルの衝撃がクセになるラグ車体験

ラグビー用車いすを漕いで漕いで漕ぎまくる娘

ラグビー用車いすを漕いで漕いで漕ぎまくる娘

会場ではコートの隣でラグ車の試乗体験もできた。これが子どもたちに大人気。常に長蛇の列ができていた。座面が身体にフィットするので、人車一体感がすごい。ホイールは子どもが操縦できるほど軽く、かなりクイックに小回りがきく。さらにスピードがものすごく出る。手漕ぎのゴーカート、といった印象。

タックル体験はクセになる。子どもたちに大人気

タックル体験はクセになる。子どもたちに大人気

そして、ぶつけ・ぶつけられのタックルし放題。衝撃的というか、衝突的というか、体全体をショックが貫く。しかし同時に、マシンの躯体に守られているため、痛くはない。全速力でガシャン!全速力でガシャン!体感型ゲームのような爽快感すらある。暴力衝動を安全に発散できる感じ。子どもだけでなく大人も思わず野生的な笑顔になってしまう。

「パパ!ぶつけるよ!」

「パパ!追いかけて!」

これには娘もどハマり。合計で3回も体験した。

車いすはクイックに反応する。おっかなびっくりの娘

車いすはクイックに反応する。おっかなびっくりの娘

「腕がパンパン・・・」

そう。とはいえ、車いすの操縦は大変なのだよ。車いすというものへの思い込みが覆る。それは車いすユーザーへの偏見が覆るということでもある。娘には、遊びながら学ぶ機会になったようだった。

ラグ車体験でひとしきり汗をかいた私たちは、いろいろなことを話しながら会場を後にした。選手の車いすの背中に、数字が書いてあったでしょ。あれは障害の程度を表してる。数字が低いほど障害が重い。お腹から下が動かなかったり、足が動かなかったり。それであんなにハードなプレーをしてるんだよね。

「どう思う?」

「んーそんなこと言われても困る」

すごい、の一言でお茶を濁さない娘の頭を、私は思わず撫でてしまった。簡単には片付けられない何かを感じ取れたのなら100点満点。そのまま代々木公園でアイスを食べて、家路についた。

子どもにとってスポーツを生で観るのは、ハードルが高い。「暑い」「寒い」「お腹すいた」「トイレ行きたい」「飽きた」「帰りたい」などなど。その点、屋内スポーツで、おおむね空いており、キッズ向けの体験コーナーもあった車いすラグビーは、私たち親子にとってはうってつけのスポーツレジャーだった。さらに学校では学べないことを学ぶ、という機会にもなった。実際、観客の多くが子ども連れだった。同じことを考えていた家族がたくさんいる、ということか。

どうやら車いすバスケやブラインドサッカー、ボッチャなんかも、大会に工夫が凝らされているらしい。次はそのあたりに参戦しようと思っている。

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